P&G新取引制度の衝撃

日本的商慣行はSCM導入の障害

 P&G(プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク)は、トータルサプライチェーンの全体最適と機能強化を目指した「新取引制度」を日用雑貨製品を対象に 10月から施行する。
 この「新取引制度」は、基本的には米国の一般的な取引制度(商慣行)を日本市場に持ち込んだものであるが、合わせてECR(エフィシエント・コンシューマー・レスポンス)やSCM(サプライチェーンマネージメント)への対応を行い、消費者起点のサプライチェーンの構築を目指していることが特徴だ。
 米国には年間リベートや特約店制度、メーカーとバイヤーの話し合い(商談)で個別的に条件が決まるといった商慣行は法的に存在しない。1936年に制定されたロビンソン・パットマン法はメーカー、卸売業者が同等級、同品質の商品を小売業者に販売する場合に、価格差別を禁止しており、この精神が取引の基本原則となっている。これにより大手業者も中小業者も、ほぼ同じ条件で競争できるほか、流通段階における競争が「メーカーや卸売業者から、いかに安く仕入れるか」ではなく、ローコストオペレーションやサービスの充実などで「同等の条件で仕入れた商品に、いかに付加価値を付けて販売するか」を競うことになった。すなわち消費者に安く販売しようとすれば、物流の合理化、店舗運営のコスト削減を徹底して推進しなければならない。これとは逆に、対面販売やアフターサービスを品質を上げることで、同じ商品を高く売っても消費者の満足を得ることができるのである。
 米国の流通業が多種多様に発達し、メーカーに十分に対抗できる実力を持つようになったのは、遠く 30年代から始まった法規制により流通システム面での競争が促進され、流通改革が進展したことが要因となっている。
 P&Gが今回、導入する新取引制度は、この米国流の基本原則を日本市場に導入しようとするもので、全ての取引先に対して「同一の取引基準と出荷をベースとした価格体系を適用」して取引の透明性を高めている。
 具体的には従来、卸商に与えていた各種のインセンティブを全廃し「発注量、納品頻度など取引き条件が同じであれば出荷価格は同一」とする新取引制度に基づき既存の取引先と契約を再締結したのである。
 それではP&Gは、なぜ新取引制度の導入に踏み切ったのか。
 これは、従来の日本型の商慣行がECRやSCMの導入など新しい流通改革を推進する上で障害になるとの判断によるものだ。
 「従来型の取引制度は、製造者起点の最適制度であるため、構造変化が進む中、流通業を含めた各企業が付加価値創造のため革新的な取り組みを行う上での制約になっている」と同社は分析する。「価格やリベート交渉力により流通業の競争力が左右される状況では、消費者価値の向上を目指した流通業のコスト削減や付加価値サービス提供のための企業努力を競争力に反映させることができない」「従来型の制度では値引きなどの交渉が商談の中心となり、対立的な取引関係や部分最適の一因となっていた。このような制約条件をなくし、製配販(製造、卸商、小売店)の全体最適を目指した機能に基づく協働関係を促進したい」というものだ。
 次にP&G新取引制度の主な取引基準を紹介する。
@標準EDIによるデータ交換
 企業間取引におけるEDIは業界標準であるVANを活用するか、あるいは流通システム開発センター(通産省の外郭団体)が策定した標準EDIであるJEDICOSとする。将来的にはWEB―EDIへの対応も視野に入れる。
A最低発注単位は100ケース
 サプライチェーン全体の物流効率化を目指し、メーカーによる非効率な小口・多頻度配送を減らし中間物流機能の最大活用を促進させるため最低発注単位を100ケースとする。将来的にはトラック満載を発注単位の基準とする。
B月1回の現金決済
 決済の方法としてはすべて月1回の現金決済とする。将来的には、キャッシュフローのスピード化を目指して現金による都度請求・都度払いを基準とする。

 P&Gの新取引制度は日用雑貨製品の卸商社のみならず、日本の流通業全体に衝撃を与えるものだ。  日本の従来の商慣行と全く異なる制度が今後、どう定着するか注目したい。
(編集長 白柳孝夫)