ペップボーイズの選択

日本の市場も各業態の棲み分けを急げ

 最近、米国の大手カーショップ、ペップボーイズは、DIY顧客層を対象にした『ペップボーイズ・エクスプレス』の全店舗(約120店舗)を競合店のオートゾーンに売却してしまった。
 昨年の初めまで、同社はアフターマーケットの全てのニーズに対応する店舗形態を目指していた。
 具体的にはDIFM顧客層を対象とした多ピット型大型店『ペップボーイズ・スーパーセンター』を中核に、DIY顧客層を対象にしたピット無しの小型店『エクスプレス』、さらにサービスのみの新業態店舗の実験も始めていた。
 しかし、DIY顧客層を対象にした小型店の領域は、最大手のオートゾーンの他、パーツ・アメリカ、トラックオート、チーフオート等々、多くの部品小売りチェーンが参入し競合が厳しい。
 また、サービスのみに特化した業態も、既存のリペアショップや、他のアンダーカーショップなどとの競合が厳しく、今から独自性を打ち出すのが難しい。同社の実験店舗もピットに店舗部分を増設して『スーパーセンター』に衣替えするかどうかの最終判断を迫られている状態だ。
 こうした中で、今回の『エクスプレス』の売却は、競合の多い事業分野から思い切って撤退し、得意分野であるピットサービスを生かして『スーパーセンター』の強化に取り組んだ方が得策との判断によるものだ。しかし、ここまでなら「採算の取りにくい店舗を整理しただけ」と見れるが、同社の場合は少し違っている。この撤退は新たなビジネス領域の開拓を可能にしたのである。
 従来、同社では小型店『エクスプレス』に在庫が無い部品は『スーパーセンター』から取り寄せていた。小型店はどうしても在庫できる部品の量が限られるため、大型店からのデリバリー・サービスによる支援が必要であった。また、この問題は『エクスプレス』のみならず多くの小型店共通の悩みでもあった。
 そこで、同社はオートゾーンを始め、このようなデリバリー・サービスの必要な業態に対するホールセール・ビジネスを強化することになった。従来、同社は整備工場や軽整備ショップを対象にホールセール・ビジネスを展開していたが、小型店『エクスプレス』を売却することで同業他社もビジネスの対象に入ってきたのである。
 さらに、最近カーオーディオの取付け販売を強化している家電専門店など(最大手ベストバイなど)、新たに部品供給が必要な業態も広がりつつある。こうした新規顧客への対応は、伝統的な部品卸売業者の苦手な領域であり、誰かが部品供給を行わねばならない。すでに同社のホールセール・ビジネスは全売上の15 %に達しており、今後も拡大が期待されているという。
 しかし、同業他社への供給に問題もある。例えばオートゾーンの店舗の前にペップボーイズのデリバリーカーが停車するのは、顧客に奇妙な印象を与えかねない。
 そこで同社はデリバリーカーの車体からペップボーイズの文字を消し、新たにAPD(オート・パーツ・デリバリー・サービス)の文字をデザインした車両を投入している。
 この他、同社は全米に張り巡らせた部品供給網を使い、スペシャルオーダーの調達ビジネスも強化している。これは店頭でチューニングやドレスアップパーツなど、特殊なニーズの商品を受注した時、該当する部品を探して届けるビジネスで、本社内の 30人の専任スタッフがコンピューターネットワーク、カタログ、電話を駆使して全米から捜し出す。自社の店舗からの注文に限らず、同業他社からの注文も受け付ける。これにより業界全体の顧客ニーズ対応能力が強化され、CS向上に繋がるだろう。
 現在、米国のアフターマーケットでは部品小売店の統合が進んでいる。この実態は単なる大手チェーンによる弱小チェーンの吸収ではない(わざわざ不採算店舗を買う者はいない)。ペップボーイズの選択に見られるように、今後拡大が期待できない市場で棲み分けを図り、業界内に新たなパートナーシップを構築しようという試みである。
 わが国のアフターマーケットも、単純な右肩上がりの時代は既に終焉し、今後は各業態の市場での棲み分けを急がねばならない。
 現在のように各業態が同じ分野に参入し消耗戦を繰り広げれば、市場の縮小は加速する。自社の得意分野に特化して棲み分けを図れば、それぞれの分野で顧客ニーズ対応能力が向上し、その相乗効果によって、市場の拡大の余地が生まれてくるだろう。このプラスのサイクルへの転換を、今こそ業界各社が考えねばならないのである。
(編集長 白柳孝夫)

(注)・DIFM=Do―It―For―Meの略。整備を依頼する市場。