ボリューム・ディスカウントは万能なのか?

割引するにも整合性のある理由が必要だ

 商品の価格は需要と供給の関係で決まる。現在のように供給過剰な時代に、商品が流通段階でだぶつくと、市場価格は常に安値に振れることになる。
 わが国のアフターマーケットも数年前より価格破壊の時代に入った。この傾向はタイヤ、バッテリー、オイル、ケミカルなどの汎用部品から始まり、徐々に消耗部品全体へと広がってきている。
 かつてのようにメーカー希望小売価格を基本に、建値制が維持されていた時代には、市場価格は常に高値に運用される傾向が見られたが、現在はレス率という言葉が無意味になるほどの低価格化が進行している。タイヤのみならず、すでに実質的に「オープン価格制」に移行している分野も増えている。
 わが国では流通系列化による価格の硬直化への反省から「安値で販売することはよい事だ」と信じられているようである。しかし、再販売価格維持行為が問題なのと同様に、優越的地位の濫用による不当廉売も問題である。
 今後、カーメーカーや部品メーカーのリストラの進行により、さらにこの傾向が増幅してくると予想されることから、そろそろ新たなルールが必要になるのではなかろうか。そこで、流通が主導権を持ち発展してきた米国の事例を紹介しながら、この問題について考えてみたい。
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 米国のアフターマーケットを歩くと、特に大手流通業者から「バイイング・パワー」という言葉を聞くことが多い。この言葉だけを聞くと米国ではバイイング・パワーが猛威を振るっているように感じられる。しかし、実際にバイイング・パワーを発揮させることは、そう簡単ではない。
 米国の商取引の基本は1936年制定のロビンソン・パットマン法により「メーカー、卸売り業者が小売業者に販売する場合、同品質の商品は同価格、同条件で販売しなければならない」と定められている。この価格差別に対する規制は大手、中小に関係なく小売業者が対等な立場で自由に競争できるよう定められたものである。
 仕入条件が同じであれば、小売店は店舗運営や物流の合理化を推進し、ローコストオペレーションにより商品の価格を下げるより有効な方法はない。あるいは顧客満足度の向上や付加価値の高いサービスにより差別化を図る方法もあるだろう。こうした環境の中でマーケティングや顧客管理技法が発達し、今日の多様な業態を生むようになったのだ。
 それでは、このロビンソン・パットマン法の規制の中で、割引制度(ディスカウント)はどうなっているのか。
 ロビンソン・パットマン法では商品のディスカウントを行うにも正当であると認められる理由が必要だ。例えば数量割引が認められる根拠は、メーカーや卸売業者の経済的な理由である。少量多頻度の注文を一回にまとめて行えば包装、出荷に関わるコストが削減されるのは明らかである。出荷先も全国各地にバラバラに配送するより、一箇所の物流センターに納入となれば物流費の削減が可能である。数量割引が法的に認められるのは「方法、数量の違いにより発生する、商品の製造や販売、配送などに伴うコストの範囲内」であり、これを超える恣意的な割引は、実質的に競争を阻害するものとして違法となる。
 もし、競争者がこうした恣意的な割引により被害を受けたと公正取引委員会や裁判所に訴えた場合は、訴えられた事業者は「製造および販売に関するコストの差異」を証明しなくてはならないのである。
 日本ではロビンソン・パットマン法に類する法律は存在しないし「恣意的な価格差別は問題である」という認識も、ビジネス風土に根付いていない。
 このため「多量に購入すれば安いのは当然」という論理がまかり通っており、中には発注もバラバラ、配送先もバラバラなのに窓口だけを一箇所に集中するだけで、割引を要求する事例も出てきている。
 長い歴史の中で続いてきた商習慣はそれなりの根拠があり、そう簡単に変えることはできない。しかし、理由なき割引やネゴシエーションにより流通業の競争力が左右される状況が継続すれば、やる気をなくす経営者が出るのも当然で、市場は急速に疲弊してしまうと心配される。
(編集長 白柳孝夫)