自動車メーカーの最終戦争

足元が明るい内に、経営戦略の転換を

 欧州統合を前に、世界の自動車メーカーの競争はいよいよ最終局面に入った。
 世界の自動車市場は日本、米国、欧州の3大市場を基盤に競争が繰り広げられて来た。この中で基本的には最も自由なのが米国市場、関税の他に従来は一部の国で輸入制限措置が実施されていたのが欧州市場であった。
 日本市場は米国からは閉鎖的と非難されていたが、関税はゼロであるし、部品の現産地規制などややこしい制度は無い。問題なのは「道路が狭い、立体駐車場に大きなクルマが入らない、左側通行、英語が通じない、消費者が商品の品質感に過剰に拘る」といった非関税障壁に類する部分だけである。
 その欧州もEUの市場統合により関税が統一され、輸入規制措置も撤廃される。EUからの要請で実施しているわが国の自動車輸出自主規制も1999年末で終了し、完全自由化となる。いよいよグローバルな市場競争が本格化するのである。
 ダイムラー・ベンツとクライスラーの合併の話しを聞いて、最初に思い浮かんだのは、例の「チキン戦争」だ。すでに 30年以上も前に米国と欧州は冷凍チキンを巡って貿易戦争を引き起こした。
 この背景として、当時の米国商用車市場にダイムラー・ベンツのトラックが大量に輸入され、国内メーカーに脅威を与えていたことがある。この時に米国がドイツ製トラックを標的に課した、商用車への %の報復関税はいまだに続いている。
 時が移り米国BIG3の一角であるクライスラーとドイツのダイムラー・ベンツが合併することになった。出身国籍、企業の歴史と風土、生産と販売手法の違いなどを超えた合併であり、グローバリゼーションを体現した世界企業がいよいよ誕生したと感じられる。 これは、またグローバル化した市場での競争がいかに厳しいかということも示している。どんなに企業風土が異なっていても合併しなければ生き残れないという判断が両社の経営陣に共通認識としてあったから実行できたのだ。
 さらに合併の時期も重要だ。クライスラー、ダイムラー・ベンツの両社は決して調子が悪いわけでもないし、経営が苦境に陥ったわけでもない。昨年、クライスラーは全世界で288万台強を販売、販売収益611億ドル、経常利益 47億ドルと設立以来2番目の実績を記録した。一方、ダイムラー・ベンツは乗用車部門で過去最高の71 万台強、商用車部門では 42万台強を販売、売上高は689億ドル、経常利益 24億ドル(対前年比78 %増)を達成している。
 調子がいい時だから将来ビジョンが描けるし、世界的な環境規制への対応、新興のアジア市場への販売戦略など新しいチャレンジに取組める。ところが調子が悪ければ自社の意思が反映できずM&Aの対象とされてしまう。
 さて、翻ってわが国のアフターマーケットを観察すると、一部では従来、考えられなかった提携や新規参入が始まっている。
 しかし、一方では相変わらず業界の行動に横並び的な要素が大きく、競争制限的な民間慣行も残っており、大半の企業では旧態依然の経営スタイルが続いているのが実態だ。
 例えばディーラーは新車販売の不振の中で、どのような生き残り戦略があり得るのか、本気で考えねばならない。現在の販売低迷は不況によることも大きいが、クルマが憧れの対象から「日常の足」となり、使える間は乗り続けようというユーザーのマインド変化によることも大きい。
 また、整備工場は中小零細規模の生業的営業形態のところが多く、経営者の人脈だけで商売を続けているのが実態だ。こうした工場では「儲からなくなれば廃業すればよい」と考える工場が多く、その時に顧客の放棄が発生する。
 さらに部品商は、こうした中小零細規模の整備工場にまで数社が部品を届けて競争している状況。配送回数は1日に7回という場合もあるが、それほど感謝されているわけでもなく利益のとれる部品は他の直売業者にあっけなく奪われている。こうした状況に未来はあるのだろうか。     
 国内経済の低迷の中で、市場の閉塞感を打ち破る業態革新が求められており、市場ニーズに対応した異業種との提携、関連業種との合併などにより、限られた経営原資を生かし、人材を活性化させる方法について、そろそろ本気で考えるべき時である。
 わが国アフターマーケットに吹く風は、世界の自動車市場に吹き荒れる最終戦争の嵐とは少し異なるが、市場競争を活発化させる規制緩和の影響がますます強くなり始めている。足元が明るい内に、経営戦略の転換と将来を展望した生き残り戦略を実行に移す必要があるのではなかろうか。
(編集長 白柳孝夫)