法人申告所得の公示制度廃止

本年3月、唐突に法人申告所得の公示制度が廃止されてしまった。その結果、弊誌恒例企画の「自動車部品・用品関連企業申告所得ランキング」も、今回が最後となる。
廃止の理由は税制調査会の「平成18年度の税制改正に関する答申」(05年11月)の最後の方に以下のように記されている。
「公示制度については、第三者の監視による牽制的効果の発揮を目的として設けられたが、所期の目的外に利用されている面がある、犯罪や嫌がらせの誘発の原因となっている等、種々の指摘がなされている。
また、これに加え、個人情報保護法の施行を契機に、国の行政機関が保有する情報について一層適正な取扱いが求められている。このような諸事情を踏まえ、公示制度は廃止すべきである」
その後、この答申をベースにした平成18年度税制改革案が閣議決定され、本年3月には衆議院・参議院を通過し、なんと決まってしまったのである。
3月と言えば新聞は連日「偽メール事件」の報道に明け暮れており、公示制度を廃止する法案が提出されたことも、審議の様子もほとんど報道されなかった。
確かに個人の長者番付が無くなるのは、個人情報保護の観点で充分に理解できる。しかし、優良企業の申告所得公示まで廃止するのは理解できない。
現在、日本に約295万社の法人があるが、この中で黒字決算は増加傾向にあるとはいえ、まだ31・5%の87万社程度である(04年実績)。この中で、年間4000万円以上の課税所得を申告した公示法人数は、毎年7万社程度という状態だ。
最近、企業のコンプライアンス(法令遵守)と共に社会的貢献が大きな課題としてクローズアップされているが、企業にとっては、まずは「収益を上げ税金を納める」のが第一歩にして最大の「社会的貢献」である。
法人申告所得の公示制度は、法人税を納め社会的な義務を果たしている企業を、公示により称揚する意味があったと思う。
一方、企業の情報開示の面でも、この公示制度は有効だ。日本に約295万社ある法人の中で、資本金1億円以上の企業は4万社弱であり、全体の1・4%でしかない。さらに株式を上場している企業は4000社弱と0・1%だ。
上場企業については決算短信から有価証券報告書まで詳細な情報が開示されているものの、99・9%の非上場企業については、情報開示について何の義務付けもなく、その実態を把握することが極めて難しい。
企業の信用情報は中小・零細企業にとっては極めて重要で「あの会社は危ない」等の風評が立てば死活問題である。とはいえ、経営者にとって「その風評は嘘である」という証拠も、なかなか示せないのが実情で、公的なデータが無い以上、「悪い噂」に対抗できないのである。
こうした中で法人申告所得の公示は、公的に発表された最も信頼できる情報であり、毎年継続的に公示される企業は、間違いなく優良企業であることを示している。
自動車のアフターマーケットの各業態は、一部を除き中小・零細企業の集合である。
そのため各社の経営動向を知るには申告所得データが有効であったが、今回の法改正で、その数少ない指標を失ってしまったのは残念である。
現状では企業の信用情報は帝国データーバンク、東京商工リサーチ等の興信所データのみで、これらの情報は、対象企業及び取引先企業へのヒアリングを元にまとめられたものである。
今後は、こうした民間の信用情報に頼るしかない……というのも辛いものがあると思うのだが。
(編集長・白柳孝夫)