市販用品と保安基準

新春早々、全国自動車用品工業会が記者会見するというので出席した。内容は「自動車盗難防止装置の自主基準登録制度」の概要説明であるが、実はこの制度はかなりの難産の末に生まれたものである。
この問題の発生は国土交通省が推進する自動車基準の国際調和・相互承認と関係している。
世界の自動車部品の認証基準を統一することを目的として開始されたこの制度は、米国にこうした認証制度がないため、実質は欧州と日本の統一となった。スタートから徐々に品目数は増えており、こうした中で盗難防止装置も取り上げられたのである。
しかし、欧州の基準にはライン装着部品(OE)のみならず、アフターマーケット部品も含まれている。だから欧州と日本を統一すると、日本の基準にもアフターマーケット部品を含めることになる。
これは、ディスクパッドなど補修部品の欧州向け輸出に影響を与えているのであるが、今回は用品が対象になったため部品以上に難しい事態となった。
市販用品の世界は市場ニーズの変化に合わせて各社が様々な商品を投入し、競争しながら製品が成熟していく。こうした業界にOEと同様の基準を導入するには無理があるのだが、一方で安全・環境問題への対応や法令遵守は、最も基本的にして重要な課題である。
アフターマーケットにおける自動車用品販売の実情として、盗難防止装置においても有名ブランドの模造品が海外から輸入され、これがトラブルを起こす事態が具体的に発生している。国内製品でも車両に装着して不具合を起こす商品が流通したこともあり、さらにエンジンの始動装置に直接にアクセスして車両火災に発展したケースも一部にあったと伝えられている。
こうしたトラブルが起きると「市販の電装用品は危険だから販売を禁止すべき」という声も出てくる。自動車メーカーがイモビライザーの装着を開始した頃は「これで盗難防止対策は万全で、市販の盗難防止装置は不要」という意見も出て来た。
しかし、そのイモビライザーによる防犯機能が破られ、自動車が盗難されているのである。
泥棒も、その道のプロ。新しい防犯装置が開発されると、次には、それを破る方法を考える。まさに「いたちごっこ」である。
このように環境が次々と変化する場合は、市販用品の持つパイオニア精神が新商品の開発に大きく役立つと思われる。この利点を生かしながら、一方で粗悪品を排除する仕組みが必要なのである。
こうした中で、今後もアフター商品が開発・販売できるよう関係者一同が努力して完成したのが今回の自主基準登録制度である。従来は保安基準適合性を審査するのは三鷹にある国の試験場だけであったが、用品業界がテスト機関と契約して、独自で登録制度を立上げたことは画期的である。
さらに、注目すべきは取付品質の問題へのアプローチである。どんな優れた用品でも、車両への取付方法が悪いと製品の機能を充分に発揮しないだけでなく、トラブルの原因にもなる。
今回の制度では登録票の裏面に取付店名称と作業者氏名を記すことになっている。販売店も取付品質への自覚を持って作業することが求められているのである。
実は今回の問題は序曲なのである。今後も同様な問題が各種の用品で持ち上がる可能性が高い。
もともと用品市場が小さい欧州と用品がアフター市場を開拓してきた日本とは事情が異なるのである。今後も市場の活力を維持していくために、安全・環境面での問題をクリアしつつ、多様性が認められる市場であってほしいと思う。
(編集長・白柳孝夫)