カーオーディオシーンを変える
メモリー・オーディオの普及

CD(コンパクト・ディスク)はフィリップスとソニーが開発したもので、ホーム用は82年に、車載用は84年に初登場している。カーCDが本格普及期に入ったのは88年頃からである。ソフトの普及に加え、ハードの低価格化が市場の拡大にはずみを付けた。
家庭用オーディオの記憶媒体であるLPレコードは、CDに押されていち早く姿を消した。車載用のカセットデッキは、その録音機能と使い勝手の良さから単体としても90年までは販売台数が伸び、その後はCDデッキと一体化した。
92年にソニーがMDを市場投入し、ヤング層(中学・高校生)を中心に、瞬く間に普及した。その理由は録音可能なメディアである点とカセットと違い頭出しが簡単。かつ小型で扱いやすいというメリットだ。
しかし、車載用のMDプレーヤーも、やがてCD一体機の中に取り込まれた。
そして、次の時代がやってきた。パソコンの普及とインターネット音楽配信に対応した新たなメディアの時代である。
現在の40代、50代の世代はお気に入りのLPレコードやCDをコレクションしたと思う。
ところが、我が家の子供部屋を覗くと、もはやCDは見付からない。お気に入りの音楽はインターネットで音楽配信サイトからダウンロードして、パソコン内のハード・ディスクに溜めている。レコード・ショップでCDを選ぶよりも遥かに効率的に、自分の好きな曲のコレクションを作り上げる。
さらに、収集された音楽の量(動画もある)も驚くほど多い。
サーバーに過度な負担を掛けることなく、動画や音楽をインターネットで簡単に配信するため、MPEG等の圧縮技術が開発されているが、その圧縮率が驚異的で、実に多量の音楽を小さな空間に収めてしまう。
例えばMP3(国際動画圧縮規格MPEGの中の音声情報圧縮規格)を例にとると、通常1曲当り50MBにも達する1曲分のデータを5MB以下まで圧縮できる。この形式で圧縮した音楽データをCD?Rに収めると、1枚のCD?Rにアルバム10枚程度が収まってしまう。
次にパソコン内の溜めたコレクションを持ち運ぶというニーズが発生する。ソニーのウォークマンから始まった、この市場はCDやMDを経て、現在はフラッシュメモリーやHDDを使用したメモリー・オーディオへと移行しつつある。
このメモリー・オーディオは音楽そのものを内部に大量に溜め込むもので、もはやCDやMDの交換が不要になる。
HDD型、内部フラッシュメモリーなど様々な形式のものが発売されているが、アップルの開発したiPOT(アイポット)の人気も高い。
アイポットは名刺サイズ程度の小さなボディに超小型HDDを搭載しており、音楽CD80〜1500枚分の音楽が格納できる。記憶容量が4GBで約1000曲、60GBで1万5000曲が収まる。重量は60GBでも僅か181gである。これだけ入って価格は7万円程度である。
携帯型メモリー・オーディオの大容量化はカーオーディオにも変化をもたらすだろう。
CDチエンジャーの市場は、HDD搭載カーオーディオの登場で縮小したが、次にはカーオーディオに携帯型メモリー・オーディオを連結して使うニーズが出てくる。今春にはアルパイン、パイオニア、ケンウッドの3社から、アイポット対応アダプター付のカーオーディオが発売された。
以上のように今後のカーオーディオは、メモリー・オーディオとの接続が大きなテーマとなるだろう。唯一の難点は、圧縮比率が大きいため音が悪いという点だが、CDと聞き比べることなくインターネット音楽配信の世界に滑り込んだ、ヤングユーザーには、その違いは分かりそうも無い。
(編集長・白柳孝夫)