「新しい自動車」の新しい整備

今年、開催された日本国際博覧会(愛・地球博)、東京モーターショーに発表された、数々の「未来の自動車」に、国民の多くは触発され多大の興味を持ったようである。そのPR効果は絶大で古くからの友人、親戚など身の回りの人達からも、様々な質問を受けるようになった。
長く自動車業界に身を置くと感覚が鈍り、こうした「新しい自動車」に、それほどの衝撃を感じなくなっている。自動車業界誌の記者として電気自動車やハイブリッド車、燃料電池車の実験走行や技術懇談会に出席したのは、かなり以前の事だからである。しかし、技術は進歩しており、地球環境問題はさらに深刻化している。
11月の東京モーターショーに合わせて、世界の自動車業界人が東京に集まった。この機会に東京国際自動車会議が開催された(日経ビジネス主催)。私もこのセミナーに出席したのだが、話題はハイブリッド一色だった。
97年、トヨタが「手塚治虫先生、21世紀に間に合いました」とプリウスを発売した時は、車両価格も高く、原価はさらに高かった。原価より販売価格の方が安く「売れば売るほど赤字になる」商品であった。
しかし本年に至り、ハイブリッドが次世代エンジンであることが、いよいよ明確になった。ダイムラーやGMが頑張って開発していた燃料電池車(水素)が次世代エンジンと言われ、ハイブリッドはその繋ぎという見方が多かったが、シンポジウムでの発表者の話のニュアンスでは、水素は当分、見込みがなさそうだと感じた。
異常気象が頻発し、地球温暖化の問題が「待った無し」の状態である現在、燃料の製造やインフラ面でコストの掛かる水素よりも、すでに存在するガソリンスタンドを活用できるハイブリッドの普及を急ぐ方が現実的である。
同時ににハイブリッドの難点であるコストの問題に目処が付いた。ハイブリッドは電気式モーターとガソリンエンジンを高度な電子制御技術で合体させたものだ。モーターは自動車以外で広く利用されており、コストも安い。ガソリンエンジンの方は、モーターで補助されるためコンパクトなもので良い。
さらに、大きなネックであった「重くて大きいバッテリー」も進化した。現状ではニッケル水素電池であるが、次世代は軽量で大容量、さらに充電の早いリチウムイオン電池となる。
さらにハイブリッドは使いやすい。ガソリンエンジンより出足が早く、パワーが有り、止まる時は走行パワーをバッテリーに回収する「回生ブレーキ」である(これは利きが良い上に、補修部品業界にとって困った事にディスクパッドが殆ど摩耗しない)。そしてタイヤを前後左右に自由に動かせる電子式ステアリンク&ブレーキである。
本年、トヨタのハイブリッド車の累計販売台数が50万台を越えた。これは輸出を含んだ台数で、トヨタ車以外を含めた日本でのハイブリッド車の総保有台数は 万台弱である。しかし、ハイブリッドの低価格化が実現すれば、その低燃費と使いやすさの相乗効果で普及は急速に進むと思われる。
こうした自動車技術の進歩に対応し、自動車整備界も準備を始めなくてはならない。
ハイブリッド車で実現した車両のトータル電子制御が、今後は他の車両にも急速に進む。現在、エンジン、ブレーキ、ステアリング等、各装置が別々に行っている電子制御が統合され、1つのコンピューターで車両を総合制御する時代が来る。
このためのシステムアーキテクチャーの標準化作業が進行中(日本はJASPER、欧州はAUTOSER)で、これは08年に完成するという。
エンジンや足回りを含めて電子制御化が進む中で、部品単体での修理は不可能になり、クルマをトータルで診断することで、初めて不具合箇所や修理方法が分かる。
従来の目視による判断の時代は終わると見なければならない。「新しい自動車」には新しい整備が必要なのである。
(編集長・白柳孝夫)