専売システムの効用

 このところ、一時期大量に流布された「中国脅威論」が衰え、日本製造業(物づくり)健在論が復活してきている。
 トヨタが過去最高の売上高、経常利益を更新し、製造業全体で見ても輸送機械を中心に業績の回復が見られ、これが「日本の物づくり」礼賛論の復活につながっている。そして、バブル経済期に盛んに行われた日本製造業礼賛と同様にトヨタ式生産方式が取上げられることが多くなり、この種の書物が飛ぶように売れているようである。
 確かに生産システムを常に見直しカイゼンを図ることは重要である。まだ、一度もカイゼンに取組んだことのない中小企業の工場も日本には多く残っているので、製造コストを削減し競争力を回復させる余地はまだまだ残されている。
 しかし、これは需要があっての話である。自社の製品にすでに需要がないのに、いくら製造コストを削減しても業績は回復しない。日本経済は 年代末までは右肩上がりで需要は旺盛であった。こうした時代なら原価管理をしっかりやれば競争力はアップしたが、現在ではこれだけでは不十分である。需要の創造という最大の課題が残されているからだ。
 日本の自動車産業を強くしたのは、トヨタ式生産方式に代表される優れた工場運営システムだけではない。常に市場の情報を吸上げ商品開発に繋げる戦略的な販売システムの寄与が大きいと思われる。このシステムの基盤は専売を基本としたディーラーシップにより支えられている。ところが、この専売システムは80年代に日米構造協議で取り上げられてから「遅れた流通システム」のように思われており、当時の経済学者からは流通系列化と批判された。
 経済学者達は日本の流通は「多段階・複雑で遅れている」と批判するが、自動車の流通はメーカーから販売店(ディーラー)へ卸売業者を介せず直接販売している極めてシンプルなものである。
 専売システムを批判する根拠も明確でない。米国で生まれたフランチャイズ・システムは同一商品、同一サービスを全国展開することで差別化を図っている。モスバーガーで「マックが買えない」と言って文句を言う顧客がいるだろうか。マックが食べたければマックに行くだけの事である。むしろモスでマックを売れば、モスバーガーやマグドナルドのコンセプト(文化)が失われてしまうのである。
 自動車のディーラーシップは、米国流のフランチャイズ・システムをさらに進化させたものと位置付けられる。専売とすることでディーラーはチャネルの取扱商品の販売促進とアフターサービスに責任を持つ。
 そのチャネルの商品について、たとえ売行きが好調だろうが不調だろうが販売促進しなければならないのはキツイ気がするが、専門に取組むことで、その商品の特徴、利点、さらに改善項目が明確になる。こうした顧客の生の声(市場情報)がダイレクトにメーカーの販売部門、さらに開発部門に伝えられ次期の開発に生かされる。アフターサービスも同様で、不具合情報はメーカーにダイレクトにフイードバッグされ、速やかな対策が取られている。これが製品の熟成、商品力の向上を可能にし、最終的には顧客満足度の向上に繋がるのである。
 もしも大型量販店のように、どのメーカーの商品も扱うシステムが取られたらどうなるか?
販売店は売れるメーカーの商品を販売するだけである。ヒット商品が出れば次々に重点商品を変更して自店の売上を伸ばす。売れない商品に構っていても何の利点もないので無視される。売れる商品は「売れる」と言う理由だけで改善点を指摘する必要は生まれない。
 自動車は単なる機械ではない。そこに様々なソフトが付加され文化を形成している。売れる車も売れない車も文化を持っている。それが、顧客にとっても魅力なのである。日本の自動車産業の強さの一端は、こうした販売システムが支えているのである。   (編集長・白柳孝夫)