回転率第一主義ビジネスの限界

 友人が職場に訪ねてきたので、「近くの喫茶店を」と探すと、入る店が無い。東京の都心部はファースト・フードをはじめとする回転率第一主義ビジネスに占拠されており、どこも客の行列が続く。コーヒー一杯飲むのに行列して、現金と交換で購入、飲んだら自分で片付けて出る。
 銀行のATM前の長い行列と同様に、 90年代の初頭以降、同じ状態が続いている。
 回転率第一主義ビジネスは、世の中が不況であるという認識から始まる。不況であるから消費者の「財布の紐」は固くなる。だから低価格にしないと売れない。低価格にすると粗利が減少する。そこで、徹底的に経費を節約して、顧客の回転率を上げて勝負する。安いのだから「味とか、多少の不便は我慢しろ」ということだ。
 この回転率第一主義のビジネスは喫茶店のみならず、食堂、居酒屋にまで浸透しており顧客はどこに行っても落ち着かない。そこで、早めに帰宅することになる。
 この回転率第一主義のビジネスは、間違いなく米国からやって来たものだ。
  80年代、米国は規制緩和により中間層が分裂する。企業の倒産、人員整理などで「夫の給料が突然、半分になった」という事態が広範に現れ、家庭を守っていた妻も働きに出る。当然、家事は分担しなければならない。片付けなければならない雑用は、どこの国でも多い。
 こうして、俄かに忙しくなった人々のニーズに応えるために、様々な業種でクイック・サービスの業態が登場したのである。
 このクイック・サービス。確かに短時間で作業は終わるが、次から次へと顧客が来店しないとどうしようもない。顧客を勧誘するため多大な宣伝費を掛けねばならない。
 米国のクイック・ルブを視察した時、本当に次々に顧客が飛び込んでくるのに驚いたものだ。実は米国の人口はここ 10年で11%強も伸びており、これが経済を活性化させている要因の一つとなっているが、日本は同じ期間に2%しか延びていない。米国では宣伝により新規顧客の獲得が期待できるが、人口が伸びない日本では一人一人の顧客に丁寧に対応して需要を引き出すしか方法はないと思う。
 しかし、米国のクイック・サービスは決して効率一辺倒の業態ではない。忙しい人のために「質」を落とさずに短時間でサービスや商品を提供するため、人海戦術で対応する。このため従業員はむしろ多くなっているのだ。
 ところが日本は「速さ」を売るより単に「質の悪いサービスを低価格で提供するビジネス」になっている。誰もそんなに急いでないことを、皆知っているのである。
 さて、ここで一つの仮説を立てて見る。消費者の財布の紐が固いのは「不況だからではなく、購入するものが無いからだ」という仮説である。テレビもビデオもエアコンもクルマも、既に殆どの家庭で保有している状態の中で、新たに購入したいという商品は少ない。さらに、これらの商品の価格は、バブル時代より安くなっている。たとえ買換えたとしても負担は少ない(車両の需要も高性能のスモールカーが売れ筋だ)。
 現状の消費の低迷は、価格のダウンにより消費者の可処分所得が多くなっているにも係わらず、購入したい商品が無いことにある。こうした環境では低価格の商品やサービスが「財布の紐を緩める」とは思えないのである。むしろ、日本の伝統に根ざした「おもてなし」の精神を継承した心落ち着くサービス。正直で誠実な顧客対応、そして今の市場では簡単に見付からない高品質な商品・サービスが求められているのではなかろうか。
 都心部の回転率第一主義ビジネスを逃れたサラリーマンが、最近、金を落としているのは、自宅近所の落ち着いた居酒屋である。住宅街の中に小さな居心地の良い店ができ、近所のお父さんやお母さんが集まって会話を楽しんでいるのが最近の傾向である。
 この仮説が正しいのなら自動車アフターマーケットに登場して久しい「短時間車検」や「短時間修理ビジネス」も、一部の需要を満たす事はできても、市場全体に広がることは無いと思われる。
(編集長・白柳孝夫)