日米自動車部品協議合意からの5年間

市場実態を正確に捉え、生産的な議論を

 95年の日米自動車部品協議の合意から5年が経過した。本年 月には協定の期限が切れるため、今後をどうするかが問題になるだろう。
この5年間で日本の自動車市場は大きく変わった。日本の自動車メーカーも純国産はトヨタグループとホンダのみとなり、他は外資の傘下に入った。部品の調達はグローバル化しており、例えばGMグループが商用車用のエンジン開発をいすゞに全面的に任せるというようにグループ内の役割分担にも左右されるようになった。昔のように「米国部品の購入計画を日本のメーカーに自主的に出せ」と言っても簡単にはいかないだろう。
一方、補修部品市場もこの5年間で大きく変わった。当時、米国側は「車検制度があるから外国部品の参入は難しい」と主張していたが、これは「独立系の整備工場で純正部品が圧倒的なシェアを持っており、分解整備の規制を緩和し、他の業態に開放しないと、外国部品の参入の機会は無い」と認識していたからだ。
この時、本誌は「車検部品は補修部品市場の中で純正部品が最も弱い分野であり、市販の多くのブランドが参入している。車検制度の規制緩和は市販部品の勢力を弱体化させ、外国部品はさらに参入が難しくなるだろう」と指摘した。
そして、 年の車検制度の大きな改革から5年が過ぎ、事態は本誌の指摘したとおりになっている。まず、リペアキット(ブレーキシリンダーのインナーパーツキット)、ブレーキホース等の市場は壊滅的な打撃を受け、最初の1年で3分の1以下に縮小した。ディスクパッド、Vベルト、エアフィルターなどの消耗部品も車検時に交換される比率が大幅に減少した。このため車検1台当りに使用する部品代は、この5年間で半減してしまった。
こうした車検部品の市場縮小は優良部品商社の経営を直撃した。同時に優良の車検部品をビジネスの中心に据えていた部品商の経営も圧迫、本誌の予測したとおり補修部品市場における市販部品の勢力は衰退したのである。
それでは、なぜ米国側は独立系の整備工場は純正部品しか使用しないと誤認したのだろう。
これには理由がある。かなり昔の話しになるが一部の陸運局で「純正部品を使用しないと車検は通らないという指導をしている」という話しがあったからだ。米国側の抗議を受けて運輸省は内外無差別の声明を出し、陸運局に通達した。この時に「日本の車検制度は純正部品に都合の良い制度」という認識が生まれたのだと推察される。しかし「車検の時に交換する部品は純正部品でなければならない」などという規制は日本にはない。
さらに、差別しようとしても外から見えるショックアブソーバなど一部の部品を除き、組み付けられた部品をチェックすることは出来ないし、バルブやVベルトなど汎用部品はパッケージを外したら純正も優良も区別は出来ないのである。
一方、分解整備検査の廃止も外国部品の需要拡大に何ら影響しなかった。
米国ではDIYで交換される部品は %強あるが、日本のユーザーは自分でクルマを整備するという習慣が無い。多くの日本人が「自分で分解整備をやりたいと思っているのに、国の規制で出来ないので不満を持っている」というのなら、こうした措置で市場構造が変わるかも知れない。
しかし、日本のように自家用車の平均走行距離が短い国では部品の交換も2年に1回程度しか必要ない。多くのユーザーが自分でやるよりも、信頼のおける工場に依頼したいと考えている。そのため規制を緩和しても、自分でディスクパッドを交換したい顧客がカーショップに大挙して押しかけるという事態は発生しないのである。
ビジネスで成功するには市場の実態を正確に把握することである。
日本の市場はそれほど分かりにくい市場ではないし、基本的にはオープンで、成功している海外サプライヤーも多い。今、必要なのは日米の関係者による率直な意見交換と生産的な議論だと思われる。
(編集長 白柳孝夫)