ある日、店頭に小学生が現れて――。

恐るべし「総合的学習の時間」

 このところ少年犯罪のニュースが続き、日本の将来を担う子供達がこの状態では、 世紀の日本は大丈夫なのかと不安を感じている人も多いだろう。
しかし、教育現場は徐々に変化が始まっているようだ。例えば「今年の夏休みに、ある日突然、小学生が某ディーラーの営業所の店頭にやってきて、環境問題への対応について様々な質問した」という話しを最近耳にした。その営業所には、ちょうど環境問題に詳しいサービススタッフがいたので、カーメーカーの対応から、ディーラーの産業廃棄物処理の現状まで、分かりやすく説明したという。
これは、今年から全国の小学校から高等学校に導入された「総合的学習の時間」の影響である。
従来の、わが国の教育は教科書を使って知識を覚えこませることに重点を置いたものであった。さらに受験体制が知識の詰め込みを加速させ、自分で考えたり、調べたり、問題解決する能力に欠ける「支持待ち人間」を大量に輩出させてきた。
 こうした反省から2002年から施行される新学習指導要領では、
個人が自主的に自分自身を高めていく学習を重視し、「生きる力」を身につける教育への転換が図られようとしている。
この目玉となるのが「総合的な学習」の時間で、本年から小学校3年から高校まで週2時間の枠組みで導入されている。
この学習は、いままでの「教科」と違い教科書が存在しない。取り上げる内容は国際理解、情報、環境、福祉の4つのテーマが決められているが、具体的にどのような授業を行なうかは現場の先生に任されている。いままで、教科書の中身を教えるだけだった先生は、自分でカリキュラムを作り、資料も用意しなければならない。
子供達も、ただ大人しく座って授業を受けるだけでは済まなくなる。「総合的な学習」はまず、問題を発見し、仮説を立て、自分で情報を収集し、結論を出し、皆の前で発表するのである。環境問題をテーマに選んだら、清掃局や廃棄物処理場を訪問して話しを聞いたり、近くの河川を調べたりもするだろう。冒頭に書いたディーラー訪問の話しも、総合的学習に関係する「夏休みの宿題」とおもわれる。
◎地域との関係強化
 こうした教育改革により、今後は学校と地域との関係が強化されてくるだろう。国際理解教育の一環として地域に住む外国人の方を学校に招き話しを聞いたり、子供達の個性を伸ばすため「地域の様々な職業の方、特技を持つ方を学校に招き授業をお願いする」というような試みも実施されている。
これにも宿題があり、私も今年の夏は「プロフェッショナルと話す」というテーマで、高校生から編集の仕事について取材を受けた。
◎インターネットの利用は進む
 一方、インターネットは「情報を収集する」という観点と「自分達の調べた結果を発表する」という両面から、利用は促進されると思われる。すでに、小学校ではインターネットが授業に取り入れられ、アダルトなど有害情報をカットした検索サイトが使われている。また、YAHOOのジオシティーズのように小学生や中学生も無料でホームページを開設できるサービスもあり、子供達が大人顔負けの楽しいホームページを登録している。
◎地域社会は調査の対象となる
この教育改革が、いつ頃から、いかなる効果をあげるかは不明であるが、少なくとも子供達の目は身の回りの地域社会に注がれる。
地域社会を調査し、地域社会から情報を収集しようとするだろう。
 こうした中で、大人たちは子供達の目を意識した行動を取らねばならなくなるだろう。また、自分達の仕事の内容を分かりやすく説明する能力も必要になる。総合的学習では、国際人を育てるという観点から「発表能力の育成」にも力を入れている。大人が子供より発表能力が劣るとなれば、ちょっと恥ずかしいだろう。
特に最近の環境教育は小学校から内容が充実していることから、整備現場でのオイルの垂れ流し、特定フロンの空中散布、産業廃棄物の不法投棄など、大人がいいかげんな事をしていると厳しいバッシングを受けることも十分に考えられる。子供達はホームページという恐ろしい(?)情報発信の武器ももっているのだから。
(編集長 白柳孝夫)